雷鳴とともに
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
数年前、
初めて出会った日
いや、初めて目と目が合った日
ホールで休憩していた僕は、ピーンポーンという音でエレベーターが開いた後、コツ、コツという足音を聞き、スマホにあった視線が一瞬上を向く。
瞬間だった
彼女と目が合った瞬間に落雷を感じた。
しかし、辺り一面はいつもと何も変わらない。人が群れ、行きかう中に僕は取り残されていた。
そして気づけば、かの存在が消えていることに気が付く。しかし、振り返った先のロッカーに佇む姿が見える。
たったの一瞥で、人への興味や関心が必然と湧くことなど在りはしなかった。いままでの、人生での蓄積において、これまでに心が困難だったことは無かった。
彼女の仕草や、行動や、話す姿のすべてがゆったりと、でも颯爽に過ぎていくようだった。初めて、人を目で追ってしまう、その場にとどまり続けたい、そう願いたい。
それは初めての感覚であった。人は運命の相手を見つけた時、脳内に鐘の響きが広がるという。
しかし、僕が感じたのは紛れもなく「雷鳴」であった。
そこはかとない確率で、初めて出会って、その場で運命を感じる事などこれからも無いだろう。それを感じる必要さえも無い。
今、人生が甘くない事を知っている。